初心者向け・砂川市猟銃所持許可取消し事件で学ぶ聴聞→審査請求→取消訴訟フルコース

行政法

私、行政法大好きなんです。なぜかというと、みんな私と同レベルだから!
民法や憲法は法学部出身の方だと既に知識があるところからのスタートでしょうけど、行政法はみんなほぼ同レベルからのスタートでしょう(たぶん)。
その上、行政書士試験では出題数が多い!頑張れば得点源に出来るに違いない!

でもなんか行政法って頭に入らないんですよね。
不利益処分だとか聴聞だとか取消訴訟だとか、「なんとなくイメージできる(けど正確に理解していない)単語」がたくさん出てくるせいだと思うんです。
そこで、2026年春出たばかりの砂川市猟銃所持許可取消し事件をモデルに行政法の流れを把握して、どの単語がどの段階で使われるものなのか頭に入れてしまいましょう!

この記事は、行政手続法や行政不服審査法、行政事件訴訟法を、ぱらーっとやってみたけどそれぞれバラバラに覚えている方を想定して書いています。
これらの行政法がどう繋がるのかイメージできない、どの段階でどの法律を使うのかぴんと来ない方、読んでみてください。

砂川市猟銃所持許可取消し事件とは…

内容

  • 2018年、北海道砂川市がハンター(猟友会支部長)にヒグマ駆除を依頼
  • 出動・駆除後、「無許可発砲」として書類送検→不起訴
  • 2019年、北海道公安委員会が猟銃所持許可を取消し
  • ハンター側が処分取消しを求めて行政不服審査→棄却
  • 2020年ハンター側が処分取消し求めて提訴→2021年地裁では処分取消し判決→2024年高裁では棄却→最終的に2026年の最高裁で逆転勝訴

登場人物はハンター(猟友会支部長)、北海道公安委員会、北海道です。
だいぶはしょってますので、詳しく知りたい方はWikipediaをご一読ください。こちらもご参考に。

この記事では上記事件をモデルにして行政法の流れを説明しますが、あくまで行政法を理解するための解説なので「ここではこういう手続を経ることができた」「経た可能性がある」といった推測を交えています。ご了承ください。

行政法の3つのステージ

まず、ここです。

2019年、北海道公安委員会が猟銃所持許可を取消し

行政手続法の不利益処分ですね。

次に、これ。

ハンター側が処分取消しを求めて行政不服審査→棄却

言うまでもなく行政不服審査法、審査請求です。

そして、三番目がこちら。

2020年ハンター側が処分取消し求めて提訴

行政事件訴訟法の取消訴訟です。

では順を追ってひとつずつ見ていきます。

【行政手続法】不利益処分と聴聞

2019年、北海道公安委員会が猟銃所持許可を取消し

公安委員会が「銃の所持許可を取り消す」という判断をしています。これは特定の個人に対して権利を制限する 「不利益処分」 にあたります。
なので、事前に不利益処分の理由を提示し、聴聞を実施したはずです。

  • 聴聞の実施(行手13条1項): 行政手続法により、「許認可等を取り消す不利益処分」をしようとする場合には、事前に「聴聞」を行うことが義務付けられています。
  • なぜ聴聞をするのか?: 重大な不利益(ハンターとしての活動ができなくなる)を与える前に、当事者に口頭で意見を述べさせ、反論や証拠提出の機会を与えるためです。この事件でも、処分が下される前に、ハンターの言い分を聞く手続きが踏まれていたはずです。

私はもやーっとイメージで覚えていたとき、この聴聞を「行政庁が誰かに不利益処分を課す前」ということを意識していませんでした。あ、事前なんだ、処分まだしてないんだ!と気づいたとき初めて、色んなキーワードが「事前手続と事後の救済」の二種類に分類されるということが分かるようになりました。
行政法勉強して間もないときは、色んなキーワードが上手く頭の中で整理出来ないと思いますが、最初の一歩としてまず「これは事前手続?事後救済?」ということを意識してみることをお勧めします。

聴聞は意見陳述手続のひとつでしたね。もうひとつは覚えてますか?
重い不利益処分の場合は聴聞、軽い不利益処分だったら弁明の機会でしたね。
許認可取消しは重い処分なので、聴聞になります。
そして聴聞の通知があったときから終結するまでの間、当事者は行政庁に資料の閲覧を要求することが出来るんでしたね。私だったら片っ端から要求します。

【行政不服審査法】事後救済①審査請求

  • 2019年、北海道公安委員会が猟銃所持許可を取消し
  • ハンター側が処分取消しを求めて行政不服審査→棄却

処分が下された後、ハンターは取消しは不当であるとして 「行政不服審査(審査請求)」 を求めました。

  • 審査請求の性質: 行政不服審査では、処分の「違法性」だけでなく、やりすぎではないかという 「不当性」 についても争うことができます。
  • 裁決の結果: 結論は 「棄却(裁決)」 でした。これは、行政内部の判断として「処分は適法・正当である」と維持されたことを意味します。
    ※審査請求の相手方は「北海道公安委員会」(上級行政庁がないので処分庁自身です)

行政不服申立ては、取消訴訟と違って簡易迅速。
ただし行政機関が判断ということは、結局行政の自己コントロールでしかないわけですね。不当性まで争うことが出来るとうたってはいますが、そう簡単に自分で自分のミスを認めるかというと……といった感じなのでしょう。

審査請求は原則的に書面審理です。これも簡易迅速な手続のため。(なんとなく口頭のほうが簡易迅速なイメージがありますが、わざわざ日程を決めて場所を押さえて一堂に会するのは大変なんですね)
ただ審査請求人または参加人の申立てがあったときは、口頭意見陳述の機会を与えなければならないのでしたね。
もうひとつ重要なトピックとしては、職権探知主義もありました。

この事件では審査庁は処分庁自身なので、もし認容裁決が出ていたら、審査庁は「処分の全部または一部を取消しまたは変更する」ことができました。
この事件は行政行為なので簡単ですが、「事実上の行為」だったときの3パターン、覚えてますか?審査庁が処分庁自身だった場合、上級行政庁だった場合、処分庁自身でも上級行政庁でもなかった場合で、微妙に審査庁がやること・命じることが違いましたね。

【行政事件訴訟法】事後救済②取消訴訟

  • 2019年、北海道公安委員会が猟銃所持許可を取消し
  • ハンター側が処分取消しを求めて行政不服審査→棄却
  • 2020年ハンター側が処分取消し求めて提訴

不服審査が棄却されたため、ハンター側は裁判所に 「処分取消しの訴え(取消訴訟)」 を提起しました。

  • 自由選択主義:この事件では不服審査を経てからですが、経ずに直接裁判を起こすこともできます(原則)。
  • 審理の内容: 裁判所は、行政内部とは異なり、処分が法律に違反しているかという 「違法性」のみを対象 に審理します。
    ※取消訴訟の被告は行政庁が所属する国または地方団体なので、この事件の場合は「北海道」になります。参考 警察法 第38条第1項: 「都道府県知事の所轄の下に、都道府県公安委員会を置く。」

この訴訟の中で行われたかもしれない審理の内容を見ていきましょう。

  1. 職権証拠調べ(行訴24条)の活用

行政事件訴訟は原則として民事訴訟の例により、当事者が主張・立証を行う「当事者主義」が採られています。
しかし行政処分は公益に関わるため、当事者が提出した証拠だけでは十分な判断ができない場合、裁判所は「職権証拠調べ」を行うことができます。

上では、行政不服審査で職権探知主義が出来ると述べました。行政不服審査はいわば内部チェックのようなもの。
一方、裁判所は中立で公平ではありますが、専門外なので、当事者が言ってもいない事実を勝手に探し出すようなこと(職権探知)は出来ないんですね。ただし行政処分の場合で、提出された証拠だけでは判断出来ない場合に限り、「職権証拠調べ」だけは認められます。

  1. 訴訟参加(行訴22条・23条)

訴訟の結果によって権利を害される第三者や、他の行政庁を審理に参加させる仕組みです。

  • 第三者の訴訟参加(22条): 許可を取り消されたハンターと、取り消した公安委員会以外にも、この訴訟の結果は「ヒグマ駆除を要請する自治体」に多大な影響を与えます。そのため、砂川市などが利害関係のある第三者として訴訟に参加していた可能性があります。
  • 行政庁の訴訟参加(23条): 処分に関与した他の行政庁を参加させることも可能です。
  1. 釈明処分の特則(行訴23条の2)

裁判所が、被告である国や公共団体(行政庁)に対し、処分の理由を明らかにするための資料提出を求めることができる特則です。

原則として民訴では、訴訟当事者が所持しているものについてのみ釈明処分=資料を提出させることができます。行政事件訴訟の場合は、当事者が所持していなくても、行政庁に資料を出させることが出来るということですね。

  • この事件での可能性: 北海道公安委員会に対し、「なぜ他の処分ではなく、許可取消しを選んだのか」という判断根拠(内部資料や会議録など)を提出させ、その合理性をチェックした可能性が考えられます。

取消訴訟の被告は国または公共団体です!道が資料を持っていなくても、公安委員会に資料を提出させられるということです。
(国または公共団体に所属しない場合は行政庁自身が被告になります)

【判決後】形成力・拘束力と国家賠償法

2020年ハンター側が処分取消し求めて提訴→2021年地裁では処分取消し判決→2024年高裁では棄却→最終的に2026年の最高裁で逆転勝訴

最終的にこの事件は、最高裁が公安委員会の処分を 「裁量権の逸脱、濫用」 と判断しました。
「市の要請で出動」という重要な事情を軽視したのは「重きに失する」であり、裁量権の範囲を超えて違法であると結論づけたのです。

  • 形成力:許可取り消し処分が消滅→許可は「ずっと有効だった」ことになる。この取消訴訟の形成力は第三者に対しても及びます(第三者効)。
  • 拘束力:公安委員会は同じ理由で再び処分できない

今回はそもそもの発端が「不利益処分」なので関係ありませんが、もし発端が「申請に対する処分」だった場合、「行政庁は判決の趣旨に従い、改めて申請に対する処分」をしなければいけません(行訴37条2項)。

つまり、

ステージ適用される法律具体的な動き
処分の前行政手続法公安委員会が「聴聞」で言い分を聞く。
処分の時行政手続法理由を付して「不利益処分」(許可取消し)を出す。
処分の後(1)行政不服審査法支部長が「審査請求」をするが、「棄却」される。
処分の後(2)行政事件訴訟法支部長が「取消訴訟」を提起。最高裁で「逆転勝訴」

    この事件はこんなふうにステージが移り変わって来ましたが、そもそもの争いの元になった行政作用が何なのか、申請なのか不利益処分なのかという区別が、判決の効力にも関わってくるんですね~。

    そして今回違法が確定したので、国家賠償法1条の適用が気になるところです。

    公務員の行為による損害は1条、物による損害は2条でしたね。
    1条は、①国または公共団体、②公権力の行使、③公務員、④職務、⑤故意または過失、⑥違法、⑦他人に損害、このすべてを満たした場合に国が賠償責任を負うというものです。

    この件は故意過失が認められるかどうか…どうなのでしょう。
    今回判決に「重要な事実を軽視した」とあったので、「職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく、漫然と処分を行った」(重要判例!税務署長の所得税更正処分です)寄りなんじゃないかと思うのですが…。

    ちなみに国家賠償請求は、公安委員会が所属する北海道(地方公共団体)に対して提起します。
    取消訴訟の判決を待たずに行うことも、取消訴訟とセットで提起することも可能です。

    また、ハンター側は、許可が取り消されていた期間に「⑦具体的にどのような損害を受けたか」を証明する必要があります。ハンターとして得られるはずだった報酬(逸失利益)、精神的苦痛に対する慰謝料などですね。

    裁判所が損害額を認定すれば、北海道が賠償金を支払います。
    もし、処分に関わった公務員に「故意または重大な過失」があった場合には、北海道は後でその公務員個人に対して「支払った賠償金を返せ」と求めることができます(求償権、1条2項)。ただし、軽微な過失であれば、公務員個人が責任を負うことはありません。

    以上、砂川市猟銃所持許可取消し事件で学ぶ行政法フルコースでした。

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