引っかかりポイント
「放棄」なのに消えない!?「譲渡」なのに移転しない!?
絶対皆さん最初は引っかかったでしょう!
…え?いつも盛大に間違えるのは私だけ…?
用語をまずは整理
抵当権の「譲渡」と「放棄」は、どちらも抵当権者が自分の優先順位や権利そのものを他人のために処分する手続きですが、「相手にすべて譲るのか」それとも「相手と分け合うのか」という点が決定的に違います。
| 処分の種類 | イメージ | 配当の結果 |
|---|---|---|
| 譲渡 | 「どうぞお先に」 | 相手が優先。自分は相手の残りを頂く。 |
| 放棄 | 「一緒に分けよう」 | 二人の債権額の比率で按分(山分け)。 |
覚え方:
「譲渡は譲るから、相手が先!」
「放棄は(順位の壁を)放り出すから、山分け!」
と覚えると整理しやすいでしょう。
いずれの場合も、この処分に関わっていない他人の順位や配当額に影響を与えることはできません。
相手が無担保債権者なのか、後順位抵当権者なのかによって、実は微妙に言い方が違います。「抵当権の譲渡・放棄」と「抵当権順位の譲渡・放棄」の二種類なんですね~。
1. 抵当権の譲渡と放棄(対 無担保債権者)
抵当権者が、同一の債務者に対してお金を貸しているけれど担保を持っていない人(無担保債権者)のために行う処分です。
- 抵当権の譲渡(相手に譲る) 自分の抵当権をそっくりそのまま相手にあげるイメージです。
- 効果: 譲り受けた無担保債権者が、元の抵当権者の順位で優先的に弁済を受けられます。元の抵当権者は、相手が満足するまで一円ももらえません。
- 抵当権の放棄(相手と分ける) 「自分だけが優先される権利」を捨てて、相手と同じ土俵に立つイメージです。
- 効果: 元々の抵当権の枠(配当額)を、抵当権者と無担保債権者の債権額の割合で按分(山分け)します。
2. 抵当権の順位の譲渡と放棄(対 後順位抵当権者)
一番抵当権者が、三番抵当権者などの「後ろの順位の人」のために行う処分です。
- 順位の譲渡(相手に譲る) 自分の上の順位を相手に譲ってあげるイメージです。
- 効果: 譲り受けた後順位者は、自分と譲り渡した人の配当合計額の中から、自分の債権額まで優先的に弁済を受けられます。
- 順位の放棄(相手と分ける) 相手に対して「自分のほうが先だ」という主張を捨てるイメージです。
- 効果: 譲渡・放棄をした二人の配当合計額を、それぞれの債権額の割合で按分(山分け)します。
抵当権放棄のケース
A所有の甲土地には、BのAに対する500万円の債権を担保するための第一順位の抵当権、CのAに対する1,000万円の債権を担保するための第二順位の抵当権及びDのAに対する2,000万円の債権を担保するための第三順位の抵当権がそれぞれ設定されているが、EのAに対する2,000万円の債権を担保するための担保権は設定されていない。この場合において、甲土地の競売により2,500万円が配当されることになったときに関して、競売の申立て前にEの利益のためにBの抵当権が放棄されたときは…
どう考えればいいでしょう?
これは抵当権の放棄=抵当権者が「無担保債権者」のために、自分の抵当権を分け合う(按分する)手続きですね。
1. 処置前の本来の配当額を確認する
まず、抵当権の処分がなかった場合の各債権者への配当額を、順位に従って計算します(配当原資:2,500万円)。
- 1位 B:500万円(全額回収)
- 2位 C:1,000万円(全額回収)
- 3位 D:1,000万円(債権額2,000万円のうち、残りの1,000万円を回収)
- 無担保 E:0円
2. 放棄の影響を計算する
BがEに対して「抵当権の放棄」をした場合、「Bが本来受けるはずだった配当額」を、BとEの債権額の比率で分け合います。この処分によって、関係のない後順位者(CやD)の配当額が影響を受けることはありません。
- 分け合う対象額: 500万円(Bの本来の配当額)
- BとEの債権額比率:
- B:500万円
- E:2,000万円
- 比率は 1:4 となります。
3. 最終的な配当額
500万円を 1:4 で按分(山分け)します。
- B:100万円 (500万円 × 1/5)
- E:400万円 (500万円 × 4/5)
- C:1,000万円 (影響なし)
- D:1,000万円 (影響なし)
結論: BがEのために抵当権を放棄した結果、配当額は B=100万円、C=1,000万円、D=1,000万円、E=400万円 となります。
もしこれが「抵当権の譲渡」であれば、BはEが全額(2,000万円)満足するまで1円ももらえないため、B=0円、E=500万円となっていました。今回は「放棄」なので、債権額に応じて分け合うことになります。
抵当権(順位)譲渡と放棄は当事者間だけの話
抵当権(順位)譲渡と放棄は「あいつと俺の間の話」です。相対的な効果と言います。
上でも説明したように、他の抵当権者には一切影響を与えません。なので、他の抵当権者の合意や承諾は不要です。
しかし、「抵当権の順位の変更」の場合は全員の合意が必要です。
順位の変更は全員の合意が必要
「順位の変更」は、登記上の順位そのものを「絶対的(誰から見てもその順番)」に入れ替える手続きです。
- 合意の範囲: 順位を変更しようとする複数の抵当権者全員の合意が必要です。
- 例:1番(B)、2番(C)、3番(D)の順位を入れ替えるなら、B・C・D全員が納得していなければなりません。
- 利害関係人の承諾: さらに、その変更によって損をする可能性がある人(転抵当権者など)がいれば、その人の承諾も必要です。(民法374条)
- 登記が必須: 譲渡や放棄は通知等で効力が出ますが、順位の変更は「登記」をしないと効力が発生しない(効力発生要件)という点も大きな違いです。
「譲渡・放棄は個人的なプレゼント、順位の変更は公式な席替え」とイメージするとよさそうです。
【共通点】設定者(所有者)の承諾は不要
意外なことに、譲渡・放棄、順位の変更、どのケースにおいても、不動産の持ち主(抵当権設定者)の承諾は必要ありません。
持ち主からすれば、誰が1番だろうと「借金を返せなかったら家を売られる」というリスクに変わりはないため、抵当権者同士が勝手に順番を決めても文句は言えない、という理屈なんですねえ。
